「平成27年版 高齢社会白書(全体版)」で要介護の主たる原因の第4位が転倒です。
転倒をして骨折をする事で介護が必要となるケースが多く、私も病院で勤務している時に骨折で入院された方の殆どが転倒が原因でした。
そして多くの方が「転んだだけで骨折するとは思わなかった」と話していたので、やはり転倒=擦り傷程度の軽い怪我と認識されているんだなと印象を受けました。
転倒には内的要因と外的要因があります。
内的要因は病気や疾患、加齢による筋力の低下、身体機能の低下が挙げられます。また飲酒や薬の副作用による足元のふらつきや眠気、注意力の減退なども転倒の原因となります。
躓いたとしても、咄嗟に足が一歩出たり、周りに掴まったりすれば防げますが「咄嗟の一歩」が出ずに
転倒に繋がります。
外的要因には室内のわずかな段差、階段、凸凹の道路、他者との接触など自分の身体以外の要因で起こる事です。多くの高齢者の居宅は昔ながらの作りで、玄関の敷居が高い、トイレやお風呂に段差がある、階段の傾斜が高いなど多くのリスクが潜んでいます。バリアフリー化で段差をなくしたり、手すりを付けたりして外的要因を未然に防ぐ事が出来ます。
転倒事例の多くは内的・外的要因が重なる事で骨折に繋がってしまいます。臨床で経験した一つの事例で説明します。
75歳の女性が自宅で転倒をして手首の骨折をして手術も無事に終わったのでリハビリを開始する事になりました。私が担当した際に経緯を聞くと
「銀行に行くため通帳をバックに入れ様としながらリビングから廊下に出る敷居に躓いて正面に倒れた」と話していました。躓いた敷居は3センチにも満たない高さでした。患者様は「急いでいたとはいえまさかあそこで転ぶとは思わなかった」と話していました。また、半年前に飼い犬の死別により毎日の散歩がなくなり運動の機会が減少したと話していました。
ここで内的・外的要因に当てはめてみると、①通帳をしまいながら歩いていたため注意散漫であった(内的)②半年前から運動が減り知らぬ間に筋力が落ちて咄嗟の一歩が出ない、段差を跨げなかった(内的)③3cm未満とは言え段差があった(外的)
この様に転倒は様々な要因が重なり起きてしまいます。住み慣れた自宅でも、今まで病気や怪我をしていなくても、誰にでも起こり得る事なのです。
転倒の原因は年齢と共に変わる自分の現状に気づかず「いつも通り出来るだろう」と誤認識している事にあります。これは若い頃から運動に取り組んでいたがやめてしまった人ほど、頭の中で思っている身体機能と実際の身体機能の差が大きくなり、「躓くとは思わなかった」と感じます。
毎日1時間ウォーキングをしている、プールに通っている、早めに健康に気遣っている人はたくさんいます。しかし、今回のコロナウイルスで突然今までの運動習慣が減ってしまい、気付かないうちに筋力が低下している可能性があります。今までの運動習慣に戻るまでは自宅内でも歩き慣れた街でも注意深く生活する事が大切です。

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