私がリハビリ専門病院で働いていた時の体験談を話します。アルツハイマー型認知症の80代の女性担当をしていました。記憶障害や自分の置かれている現状が分からなくなる見当識障害もあり、突然「今日は仕事があるからそろそろ出勤しないと」と玄関から出て行ってしまう事も何度かありました。性格は穏やかで話しかけるとニコニコして優しい方でした。長い入院生活の中で何度も離院(病院を抜け出す)をするたびにスタッフから「あなたは入院中なの」「仕事なんてして無いでしょ大人しく座ってて」と何度も強制的に席に戻されていました。

 ある時、患者さんからいつもの笑顔がなくなったことに気づきました。話しかけても無言でいつもと違う事に周りも感じ始めたある日、患者様が大声で叫び「あなたたちは私の妨害をする敵だ」と泣いてしまいました。 この時に本人からしたら本当に仕事に行こうとしていた行為を否定して強制的に押さえつけたストレスが爆発したのだと思います。

アルツハイマー型認知症で記憶力が低下しても不快感やストレスは残ります。周りから否定され続けた事で深く傷付いてしまい 悲しい気持ちで溢れていたのだと思います。

本人に入院中である事と、仕事はしていない事を伝えても覚える事ができず現状が把握出来ないため、スタッフで話し合い、入院中の生活のリズムを改善することにしました。

患者さんは1人でじっとしている時間が長いと突然仕事に行くと立ち上がる傾向がありました。仕事への想いが強いため、病院内で出来る範囲の仕事を与えることにしました。
昼食前に「テーブルを拭く仕事があるのだけど手伝っていただけない」 と提案したり「院内のトイレにペーパーが足りているか見回るのを一緒に手伝ってもらえますか」と声をかけて、トイレを周り歩きながら気をそらして、部屋に戻ってくるタイミングでリハビリ士が迎えに来て運動に連れて行くことで、仕事の欲求の解消と1人にしない時間を確保することで、離院してしまう事がなくなり、自分から「何かお手伝いできる事はある?」と自発的に尋ねらようになりました。気持ちも満たされ以前のようなにこやかな表情に戻りました。

この事例のように相手の行動を否定せず、相手の欲求を満たす取り組みをすることで症状の緩和につながる事がわかりました。一緒に暮らしている方は充実付きそう事は難しいかもしれませんが、否定して強制するのではなく認知症者の欲求にアプローチしてあげる事が症状の緩和に繋がると考えられます。
膝痛